味覚に関するお仕事をさせていただいていると、
「料理の味が美味しいかどうかなんて、人それぞれですよね?」
というお言葉をよく頂戴します。
確かにその通りではあるのですが、
”人ぞれぞれ”だからといって、味を評価することはできないか、というとそうではありません。
日本味覚協会では、「味」の評価は「お笑い」の審査と似ている、と考えています。
漫才やコントを見て面白い!と思う感覚は”人ぞれぞれ”ではあるものの、
それでも客観的に面白い!か面白くない!かはなんとなくわかるし、
M-1グランプリなどの審査結果をみても、一定の納得性はあるように思います。
(優勝したコンビがその後活躍するかどうかは置いといて)
今日はお笑いの審査方法を踏まえて味覚評価(官能評価)の仕組みをご説明したいと思います!
毎年、年末が近づくとお笑い番組が増え、
M-1グランプリのようなコンテストを見る機会も増えますよね。
私はお笑いが大好きなので、(好きすぎてM-1に毎年出場していることは秘密です)
年末年始のテレビはいつも楽しみにしています。
お笑いに関するコンテストは、年末に限らず、古今東西さまざまなものがありますが、
今回は、中でも有名な以下の3大会を例にご説明させていただきたいと思います。
・M-1グランプリ・・・「漫才」の日本一を決める!
・キングオブコント・・・「コント」の日本一を決める!
・THE W・・・「女芸人」の日本一を決める!
※「THE W」に関しては、2017年に初めて開催されたもので、
まだ認知度はそこまで高くないかもしれませんが、
審査方法に特徴があるため、今回挙げさせていただいています。
3大会に共通している戦い方としては、
まず決勝戦(ファーストラウンド)に10組ほどが進出してネタを披露し、
その上位者が最終決戦としてもう一度ネタを披露、
一番得点が高い人(コンビ)が優勝となる! というものです。
では各大会ごとの評価方法(審査方法)を見ていきましょう!
M-1グランプリ
M-1グランプリは2001年に第1回大会が開催。
その後10年間続けられたものの一時中断、2015年に復活して今に至っています。
第1回大会のみ少し現在と異なる審査方法でしたが、
第2回大会以降は基本的に同じ審査方法が用いられています。
以下では最新(2018年)の審査方法を記載します。
審査方法
【評価者】
いわゆる大御所の方々など。
上沼恵美子さんや松本人志さん、オール巨人さんらが務めます。
【評価人数】
7名
【評価方法】
〈ファーストラウンド〉
1人100点満点で採点。
〈最終決戦〉
ファーストラウンドを勝ち抜いた上位3組のうち、7名の審査員がそれぞれ1組を選ぶ。
審査員に最も多く選ばれたコンビが優勝。
キングオブコント
コント日本一を決めるこの大会は2008年に第1回大会が実施され、
現在まで11年連続で開催されています。
(かもめんたるが優勝した第6回大会には番組観覧にいきました。懐かしいです)
審査方法はいろいろと変遷がありました(後述します)が、
今では以下のように統一されています。
審査方法
【評価者】
松本人志さん、さまぁ~ずの大竹さん、三村さん、バナナマンの設楽さん、日村さん
【評価人数】
5名
【評価方法】
〈ファーストステージ〉
1人100点満点で採点。
〈ファイナルステージ〉
ファーストステージを勝ち抜いた上位3組について、再度1人100点満点で採点。
ファーストステージの得点とファイナルステージの得点の合計点が一番高い組が優勝。
THE W
2017年に初開催された、女芸人日本一を決めるこの大会。
初年度はゆりやんレトリィバァさんが見事優勝を果たしました!
審査方法が前述の2大会とは大きく異なっており、特徴があります。
審査方法
【評価者】
主に一般の審査員
(数名のタレント審査員もいるが一般審査員と同じ1票しか持たない)
【評価人数】
401名
【評価方法】
〈ファーストステージ〉
1対1の対戦形式でネタを披露。審査員の得票が多い人が勝ち抜け。
〈最終決戦〉
ファーストステージを勝ち抜いた上位5組がネタを披露。
審査員からの得票が一番多かった芸人が優勝。
官能評価とは?
いったんお笑いの話は止めて、
ここからは官能評価の話をしたいと思います。
「そもそも官能評価って何だっけ?」
という方も多いと思いますのでご説明をさせていただくと、
官能評価とは、
官能特性(人の感覚器官が感知できる属性)を人の感覚器官で調べること
を表します。
もう少しわかりやすく言うと、
味とか、においのような、感覚として捉えているものを、
機械で測定するのではなく、人が体感することで、調査すること、
となります。
※主に食品を評価する際に使用される言葉ではありますが、
「お笑いの審査」も、広い意味では官能評価と言えるのではないかと思います。
官能評価の目的
食品の官能評価(味覚評価)は、主に2つの目的で実施されます。
1つ目は、
「ヒト」の味覚を測定すること、です!
その人の味覚が良いか、悪いかをチェックするということですね。
※日本味覚協会が開発している味覚検定チョコは、
まさに「官能評価」ができるチョコと言えます!!
2つ目の目的は、
モノ(食品)の味をチェックすること、です。
例えば食品会社で新商品を開発するときに、
新商品と既存品を比べて味がどのように違うか、などをチェックしたりします。
官能評価の評価者(パネル)
では、官能評価は一体誰が行うべきなのでしょうか?
「手の空いた人でやっといて!」というようなものではなく、きちんとしたルールがあります。
それが、「分析型パネル」と「嗜好型パネル」です!
分析型パネルは、
「少人数」かつ「専門家」であることが特徴で
嗜好型パネルは、
「大人数」かつ「専門家ではない」ことが特徴となります。
「専門家って何なのよ?」と言われると難しい(各社の判断だったりする)んですが、
基本的には、前述の「ヒト」の官能評価をクリアした方(つまり味覚の良い人)は
専門家と言っていいと思われます。
逆に、「専門家ではない人」とは、つまり一般の方々です。
例えば、一般の方100人を集めてテイスティング調査を実施する、といった形になります。
また分析型パネルでは、
採点法(個別に点数をつける)など様々な評価手法が用いられますが、
嗜好型パネルでは、
「食べ物Aと食べ物Bのどっちが好きですか?」というような
比較して答えを得ることができる(簡単な)評価手法を用いることが推奨されています。
M-1とキングオブコントは「分析型」!THE Wは「嗜好型」!
ここでお笑いの話に戻ります!
各大会の評価者を見てみると、
M-1グランプリは7名(大御所の方々)、
キングオブコントは5名(松本人志さんとさまぁ~ず、バナナマン)
THE Wは401名(一般の方々とゲスト審査員)
となっています。
なおかつ、
M-1グランプリとキングオブコントは個々に点数をつける手法(採点法)を用いており、
THE Wは、「どちらが面白かったか?」を比較して投票させる仕組みを用いています。
これは、まさに「分析型パネル」と「嗜好型パネル」の特徴をとらえており、
官能評価の仕組みとしては素晴らしいものと言えると思います!
M-1グランプリ&キングオブコント
【分析型】
「専門家」か否か:○(お笑いの専門家と言える)
人数:○(少人数)
評価手法:○(100点満点の採点法)
THE W
【嗜好型】
「専門家」か否か:○(嗜好型は専門家ではなく一般の方々でよい)
人数:○(401名と大人数)
評価手法:○(比較法)
特に、THE Wの審査方法について、
ゲストのタレント審査員は「専門家」ではないため一般の方と同じ扱い(持ち票は1票)、
にした点や、
面白いと思ったら複数投票してよい(いわゆるオンエアバトル方式)ではなく、
比較して面白い方だけに投票する、という方式にした点、
など、
しっかりと「嗜好型」の官能評価について勉強された方が設計されたのだなと感じました。
逆に、M-1グランプリとキングオブコントについては、
(概ね評価方法に問題はないのですが)
味覚の「分析型」官能評価と比較すると若干異なる点がありますので、
気になった点を述べさせていただきます。
・評価者について
分析型パネルは「専門家」であることが絶対条件となります。
個人的には、現在M-1グランプリやキングオブコントの審査員を務める方々は
まさに「笑いの専門家」と言える方々だと思っていますが、
官能評価のように「お笑いを見る感度」を測定し、
その試験をクリアした方、という訳ではありません。
(そんな試験はないので仕方がないのですが)
そのため、「専門家」であることの根拠に欠けることとなり、
まれに「この人が審査員で大丈夫?」というような声がネットで上がる状況が起きてしまっています。
・採点の点数について
M-1グランプリとキングオブコントでは、1人100点満点で評価をしています。
味覚評価の場合では、100点なんていう持ち点を使うことはほとんどありません。
5点満点や10点満点、多くても-10~+10という20点満点の指標です。
番組を見ていると、
100点満点とは言うものの実際は80点~100点の間(20点満点)
で評価しているようなので問題はないのですが、
(過去には立川談志師匠が50点を付けたこともありますし)
付けられる点数の幅を(本来は明確に)決めておく必要はあると思います。
キングオブコントの過去の評価方法は失敗だった!?
キングオブコントの審査方法はいくつかの変遷を経て現在の形になっています。
過去は「優勝者となる芸人を決めるのは、芸人自身」をコンセプトとしており、
特に第2回(2009年)~第6回(2013年)までは、
準決勝に進出した芸人100人が、1人10点満点で評価をする、という形式をとっていました。
これは官能評価の観点で考えると、、
【分析型??】
「専門家」か否か:△(準決勝進出者は専門家と言えなくもないが・・・)
人数:×(少人数ではない)
評価手法:○(10点満点の採点法)
【嗜好型??】
「専門家」か否か:△(嗜好型なら一般の方々で十分だが・・・)
人数:○(100名は大人数と言える)
評価手法:×(嗜好型に採点法は相応しくない)
分析型、嗜好型、どっちつかずの評価方法となってしまっていました。
これは、官能評価の評価手法としては適切ではないと言わざるを得ません。
審査方法の決定や変更の背景は定かではありませんが、
結果として、現在の形(分析型)に変更されたことは、自然な流れだと思います。
お笑い番組以外にも、モノマネ番組やカラオケバトルなど、
「審査」形式のバラエティは多く存在します。
そのときに、今日のお話を思い出して、
・そもそも「官能評価」なの?(機械が判定してる?人が判定してる?)
・「官能評価」だとしたら、分析型?嗜好型?それとも”どっちつかず”?
という点に着目してテレビを見ると、また一つ面白い発見ができるのではないかと思います!
(最後に宣伝)
日本味覚協会では、味覚に関する官能評価(試飲/試食調査)の依頼について
随時お受けさせていただいております。
(「分析型」、「嗜好型」ともに実施することが可能です)
また、官能評価に関する研修/セミナーにも対応しています。
ご興味をお持ちの方は、お問い合わせフォームよりご連絡お願い致します!
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本日のまとめ
・官能評価では分析型パネルと嗜好型パネルが用いられます。
・お笑いの審査方法は味覚の評価方法とすっごく似てる!
・今日はお笑いをテーマにした回でしたが一切ボケることなくお送りしました
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