先日、芸歴16年目以上の芸人による漫才トーナメント「ザセカンド」が開催されました。

今回は、M-1グランプリやキングオブコントと違い、
プロの審査員ではなく観客審査の手法がとられ、賛否両論を巻き起こしています。

 

私たちでは、

おもしろい!を評価すること(お笑いの審査)と、
!を評価すること(味覚の評価:)は
非常に似ていると考えていますので、

「ザセカンド」の審査方法について、官能評価の考え方を基に考察したいと思います!

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「ザセカンド」は今回が第1回の大会で、4時間を超える生放送で行われました。
優勝者はギャロップ!ベテランらしく安定感抜群で、面白い漫才でしたね!
おめでとうございます!

 

結果だけを見ると、
ギャロップの優勝に異を唱える人は少ないのではないかと思いますし、
納得性の高い結果だったと思いますが、

審査方法が正しかったかどうかは、また別問題だと考えます。

 

私たち日本味覚協会では、
官能評価の方法について、いろいろな食品会社さんにて研修をさせていただいておりますが、

※参考ページ:一般社団法人日本味覚協会のサービス(研修など)

 

官能評価とは、そもそも人の感覚器官による評価全般のことを指し、
「おもしろい」という感覚を評価するお笑いの審査も、官能評価の一種であると考えています。

 

そこで、研修でお伝えさせていただいている官能評価の考え方を基に、
今回の「ザセカンド」の審査方法が適切だったかどうかを考察してみます!

 

 

評価パネル~分析型パネルと嗜好型パネル~

評価パネルとは、評価を行う集団のことを言い、
官能評価では、以下の2つの評価パネルがふさわしいとされています。

分析型パネル・・・少人数の専門家により評価する
嗜好型パネル・・・大人数の一般人により評価する

 

M-1グランプリやキングオブコントなどは、7人あるいは5人のお笑いのプロによる評価ですので、分析型パネルと言えます。

今回のザセカンドは、100人の観客審査ですので、嗜好型パネルを採用したということになります。

例えば観客審査なのに審査員を5人にした!という場合は、
嗜好型パネルではないので官能評価としてふさわしくない、と言えますが、

100人という大人数を評価者にしていますので、嗜好型パネルの基準を満たしており、
パネルの選択は問題なかったと言えます。

 

 

※なお、ここの分析型パネルでいう「専門家」とは、
その道で有名であるとか、そういうことを言っているのではありません。

 

例えば味覚の官能評価で分析型パネルを実施する場合、
専門家とは以下の2条件を満たすと定義しています。

・味覚が優れている
・評価ルールをきちんと認識している

 

前者の「味覚が優れている」の条件を満たすには、
(社内ルールで規定していただければよいですが)
事前に味覚が良いか悪いかを判別するテストを実施していただくことを推奨しています。

※当協会の「味覚検定チョコ」を基準として使用していただいている会社さんも多いです。

 

 

後者の「評価ルールをきちんと認識している」という点については、
評価者研修や評価者トレーニングを実施し、
評価者同士で評価ルールの相互認識を図ることが非常に重要になります。

※ただその道の大御所を呼んで(あるいは食品会社の管理職などに)審査させるだけでは、
「専門家」の審査とは言えないので注意が必要です。

 

 

逆に言えば、嗜好型パネル(大人数の一般人による評価)の場合は、

専門家ではないので、「評価者はルールをきちんと認識していない」
ということを前提にシステムを作ることが必要になります!

 

 

採点方法~独立評価法と比較法~

独立評価法とは、一つずつ独立して評価する、という形式で、
M-1グランプリ(ファーストステージ)やキングオブコントのように、
ひとつのが終わったら都度採点をする方法です。

 

反対に比較法とは、M-1グランプリのファイナルステージのように、
複数のコンビを見て、比較したうえでどれが面白かったかどうかを評価する方法です。

 

 

一般的に、分析型パネルでは独立評価による採点法が推奨されていて、
嗜好型パネルでは比較法が推奨されています。

なぜなら、一般人は「評価ルールを正しく認識ができていない」ことが前提なので、
嗜好型パネルでは、独立評価による採点が正しくできない
(採点基準がみんなバラバラになってしまう、など)からです。

比較する形(どっちが面白い?という単純な選択)にして、
分かりやすい評価方法にすることが求められます。

 

 

では今回のザセカンドの評価方法を見ると、、、

実は、予選(ノックアウトステージ)と決勝で評価方法が変わりました。

 

評価基準(採点基準)は共通しており、以下の通りです。

3・・・とても面白かった
2・・・面白かった
1・・・面白くなかった

 

 

【ノックアウトステージ(ベスト32→16/ベスト16→8)】
先攻のネタを見た後に採点し、後攻のネタを見た後に採点する。

 

これは完全に独立評価法と言えます。

 

しかし、この方法では
先攻に2をつける人が続出し、後攻の勝ち上がり率が異常に高くなりました。

※ノックアウトステージ32→16では、16の対戦のうち、13が後攻の勝利。
※ノックアウトステージ16→8では、8の対戦のうち、7が後攻の勝利。

 

これは前述した通り、嗜好型パネル(一般人の審査)では、
評価基準を正しく設定できない
(後攻にもっと面白いネタがある可能性を考慮してしまい、
本来先攻で3をつけるべきところでも2をつけてしまう)審査員が多いことを表しています。

 

 

よって、決勝トーナメントでは、以下のように変更されました。

【決勝トーナメント(ベスト8以降)】
先攻、後攻の2組のネタを見た後で、それぞれ点数を採点する。

 

 

主催者の意図としては、独立評価ではなく比較法に変えたかったんだと思いますが、
大幅に方法は変更せず、2組のネタを見た後にそれぞれ独立して採点する、という

独立評価法なのか比較法なのかあいまいな方法に着地することとなりました。

 

 

 

審査の問題点と改善方法

前述した通り、
嗜好型パネルであれば、評価方法は比較法にすべきだと思いますし、
比較法にするのであれば、設問形式も比較の形にすべきです。

 

簡単に言えば、2組のネタを見た後に、以下のように、
単純に「どちらが面白かったか?」を問う形にすべきだと思います。

・Aの方が面白い(+1)
・Bの方が面白い(-1)

の2択にするのではなく、

・Aの方が面白い(+1)
・同じくらい面白い(0)
・Bの方が面白い(-1)

と3択にしても良いです。

 

 

※今回の審査では、1人の評価者が
3と1をつけることができ、最大で2点の幅で差をつけることができるようになっています。

そもそも一般人の評価(嗜好型パネル)で2点の幅を持たせることは推奨されない
(点数幅の基準について全員が正しく認識できないから)

ですが、もしどうしても2点の幅を持たせたい、という主催者の意図があるのであれば、
以下のような審査基準にしても良いです。

・Aの方がとても面白い(+2)
・Aの方が面白い(+1)
・同じくらい面白い(0)
・Bの方が面白い(-1)
・Bの方がとても面白い(-2)

 

現状の審査は、なぜか2組のネタが終わった後で、
先攻、後攻それぞれ独立評価するような形で2回も得点を入力する手間があったのですが、
このような比較する設問にすれば、得点入力が1回で済むというメリットもあります。

 

 

「ザセカンド」は、来年以降も第2回、第3回と続くと思いますが、

M-1グランプリも、キングオブコントも、
第1回の大会から現在では審査方法がずいぶん変わってきていますので、
ザセカンドも、これからより適切な形へと変わっていくと思います!

 

 

以上!今日は「ザセカンド」の審査に関する考察でした!

 

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本日のまとめ
・「ザセカンド」はお笑いコンテストでは珍しく嗜好型パネルを用いて評価された。
・嗜好型パネルでは、比較法を用いることが望ましい。

・ギャロップ優勝おめでとう!マシンガンズも惜しかった!囲碁将棋は来年に期待!
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