インバウンドの増加に伴い、外国の方に驚かれる日本の食文化として「口内丼」が話題になっています。
口内丼とは、ごはんとおかずを口の中で一緒にあわせる、というもので、
正式には「口内調味」と呼ばれる食べ方です。
ある文献によると、約75%の人が口内調味を行っている、と考えられています。
※引用:木村留美 他「口内調味の実施状況が白飯とおかずを組み合わせた食事での白飯のおいしさに及ぼす影響」、日本調理科学会誌Vol44、2011年
そもそも、なぜごはんとおかずを合わせたくなるのでしょうか?
白飯とおかずが合うのは常識とされていますが、
ごはんとおかずが合う理由は何?と聞かれてはっきりと答えられる人はほとんどいないと思います!
この理由を論理的に示すことは意外と難しいのですが、
今回、私たち一般社団法人日本味覚協会の見解をご紹介させていただきます!
そもそも、「合う」って何?
このワイン、料理に合うよね、など、
食べ物には「合う」という言葉がよく使われますが、合うとはそもそもどんな意味でしょうか?
合うは合うでしょ、と思われるかもしれませんが、
まずこの言葉をきちんと定義するところから始めたいと思います。
当協会では、食品A、Bが「合う」(相性が良い)という言葉を、
A、Bをそれぞれ単独で食べたときと比べて、
A、Bを組み合わせて食べたときの方が、より美味しいと感じる場合
と定義しました。
では、組み合わせて食べた方が美味しく感じる場合、とは一体どのようなときでしょうか?
味の組み合わせ効果とは?
食べ物を組み合わせると美味しくなるための条件は、いくつかあります。
※本来は、味(味覚)だけではなく、香り(嗅覚)や、食感(触覚)が合う
ことが可能性として考えられますが、今回は「味覚」に特化して考えます。
味が合うための条件については、
(すべてが明確になっているわけではないように感じますが)
現時点で、明らかに条件が成り立つ、と考えられているものとして、
以下の味の組み合わせ効果(相互作用)が挙げられます。
〇対比効果・・・一方(または両方)の味が強められる
〇抑制効果・・・一方(または両方)の味が弱められる
〇相乗効果・・・相互の味が強められる
※各効果の詳細は以下をご参照いただければと思いますが、
参考記事:なぜスイカに塩をかけるの?~隠し味の秘訣「対比効果」「抑制効果」「相乗効果」「変調効果」~
わかりやすく言うと、
1+1=2
の場合は、ただ味が足されただけなので「合う」とは言えなくて、
1+1=10 (対比効果/相乗効果)
になったり、逆に
1+1=1 (抑制効果)
となるような場合は、味が「合う」可能性があると考えられます。
つまり、ここまでをまとめると
味が「合う」とは、
対比効果/抑制効果/相乗効果のいずれかが発生している状態である、
と整理することができます。
※味を足しただけ(1+1=2の場合)でも、一般的に「合う」と表現される場合はあります。
例:味のバランスが個人の嗜好性に合う場合
(例えば、塩味10、うま味5のバランスの料理を美味しいと感じる、という方がいて、
その人が塩味10の食品Aと、うま味5の食品Bを組み合わせた場合)
※ただし、この場合は、あくまでも
その人の味覚に「合う」(個人の嗜好にマッチする)だけであり、
前述の定義による味が「合う」(味の組み合わせ効果が発揮される)状態とは異なります。
〇ごはんとおかずを合わせるとどんな効果がある?
対比効果/抑制効果/相乗効果
はどんなときでも起こるわけではなく、効果が発生するには条件があります。
ここでは、ごはん(白飯)に対して、どのような効果が発生する可能性があるかを考えてみます。
まず、ごはん(白飯)が持つ味の特徴を示すと、
ごはん(白飯)は、大まかに言うと、甘味(弱)とうま味(弱)を持つと言えます。
ごはんの持つ甘味とうま味のうち、
対比効果/抑制効果/相乗効果
が成り立つと考えられるのは、(基本的には甘味ではなく)「うま味」によるものだと考察します。
具体的には、以下2つの効果です。
〇抑制効果
うま味は、強い塩味を抑制する効果があります。
つまり!
おかず単品だと「味が濃いなぁ(塩味が強いなぁ)」と感じる場合でも、
ごはんと一緒に食べることで、「なんかちょうどいい味」と感じることができるようになります!
そもそも、おかずはごはんと一緒に合わせること(抑制効果が発生すること)を前提として
単体としては塩味が強めに作られることが多いのではないかと考えます。
ですので、(塩味が強い)おかずは、原則としてごはんに合うと言えます。
※逆に言うと、塩味が強くないもの(サラダなど)や、
単体で食べてちょうど良い塩味のものは、ごはんに合うとは言えません。
※ごはんとおかずが合う要因の大部分は、
上記のようなうま味と塩味による抑制効果だと想定されますが、
抑制効果は甘味と苦味の関係においても発生しますので、
苦味の強い食べ物(ピーマンやゴーヤなど)がごはんに合う場合は、
ごはんの甘味によって苦味の抑制効果が発生している可能性も考えられます。
〇相乗効果
ごはんのうま味は、主にアスパラギン酸やグルタミン酸由来であると考えられますが、
グルタミン酸のうま味は、イノシン酸やグアニル酸のうま味と相乗効果を発生させます。
イノシン酸はカツオ節、グアニル酸はしいたけのうま味が代表的ですので、例えば
おかかがごはんに合うのは、この相乗効果によるものだと考えられます。
まとめると、どういうこと?
なんだか長々と書いてしまったので、ここまでをまとめます!
(1)「合う」とは、単独で食べるより組み合わせて食べた方が美味しいと感じる場合
(2)組み合わせて食べて美味しく感じるには、対比効果/抑制効果/相乗効果が発生することが条件
(3)ごはん(白飯)とおかずでは、以下の抑制効果と相乗効果が発生するため「合う」と言える
【抑制効果】ごはんのうま味が、おかずの塩味を抑制し、味がマイルドになる
【相乗効果】ごはんのうま味が、おかかなどのうま味と相乗効果を発生させ、うま味が倍増
(1)については、
そもそもごはん(白飯)は、単独で食べると(味が強くないので)美味しいと感じにくいため、
組み合わせて食べた方が美味しく感じやすい(つまり、合いやすい)食品であると言えますね!
(2)と(3)については、
結論だけを言っちゃうと、まぁ味が濃いものとごはんは合うよね、ってことなので、
そりゃそうだよね、ってことなんですが、
今回はなぜ味が濃いもの(塩味が強いもの)と合うのか、
という点について、論理的にご理解いただけたのではないかと思います。
以上!本日はごはんとおかずが合う理由の考察でした!
日本味覚協会では、今後ともこのような味覚に関する研究/考察などをご紹介していきたいと思います!
※当協会では、そもそも自分の味覚が良いか悪いかをチェックするため、
「味覚検定(3級)」や「味覚検定チョコ」を監修/販売していますので、
ご興味をお持ちの方は是非チャレンジしてみてくださいね!
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本日のまとめ
・単独で食べるより組み合わせて食べた方が美味しいと感じるときに「合う」と言う
・ごはんとおかずが合うのは、主にごはんのうま味がおかずの塩味を抑制しているから
・クセ強め(塩味強め)の人には、うまく抑えられる人(弱いうま味を持つ人)が合うと思います
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