2024年のM-1グランプリは、令和ロマンの2連覇という劇的な結果で幕を閉じました。

例年、M-1グランプリの審査はなにかと物議を醸すことも多いのですが、
今年の結果については納得性が高く、
令和ロマンの優勝は妥当だと考える人は多いのではないでしょうか。

かくいう私もそう感じた人の一人ですが、
「評価」を専門とする立場として、今日はもう少し掘り下げて考察をしてみたいと思います!

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私たち一般社団法人日本味覚協会では、
これまで「官能評価」に関する研修・セミナーを数多く実施しています。

※官能評価とは、ヒトの官能特性を用いて評価を行う方法で、
特にヒトの味覚を用いて評価する(つまり実際に食べて評価する)方法を「味覚評価」と呼んでいます。

 

官能評価のセミナーでは、よく「味の評価はお笑いの評価に似ている」と話しています。

※「おもしろい」という感覚は、「おいしい」という感覚と同様にヒトの官能特性の一つです。
そのためお笑いの評価も官能評価の一種であると言え、
味覚評価と同様の仕組み(考え方)で評価することができる、と考えています。

 

そのため当サイトでは過去にもいくつかお笑いの評価に関する考察記事を書かせて頂いているのですが、

※参考記事:官能評価とは?お笑いの審査方法から考える味覚評価の仕組み

※参考記事:味覚評価(官能評価)の考え方を基に「R-1グランプリ」審査を考察します~味覚とお笑いの評価は似ている~

※参考記事:お笑い「ザセカンド」の審査を徹底分析!~食の「官能評価」の考え方とは~

※参考記事:【官能評価から考える】M-1審査員の評価は?~山田邦子さんの評価は適切だった?~

 

 

今回は少し視点を変えてM-1グランプリ(2024)の審査について考察したいと思います!

 

 

採点結果の一覧

まず、審査結果について、以下に一覧を示します。(引用:スポーツニッポン新聞社)

なお評価方法は以下の通り。

〇ファーストステージ・・・100点満点で採点。上位3組が最終決戦進出。
〇最終決戦・・・・各審査員が1組を投票。(最終決戦のネタのみを評価基準とする)

 

官能評価としては、
ファーストステージと最終決戦で評価方法を変えている点が特徴的と言えます。

 

 

採点幅

「採点法」の場合、
(平均点は重要ではないが)「採点幅」は重要だと、過去の記事でも記載させていただきました。

これは、例えば誰か1人が「50点」とかつけちゃったら、
その審査員1人の影響力が強くなりすぎてしまうので、

審査員全員の影響力を平等にするためには「採点幅」が概ね一致することが重要、
ということです。

 

今年の審査について、具体的に採点幅を見てみると、

【6点】海原ともこ
【7点】ナイツ塙、オードリー若林、
【8点】笑い飯哲夫、かまいたち山内、
【9点】中川家礼二
【10点】博多大吉、ノンスタ石田、アンタ柴田、

となります。(敬称略)

 

つまり、

M-1グランプリは100点満点の評価と謳いつつも、実質は10点満点の評価であり、
1点~10点で点数をつける人もいれば、3点~8点の幅で評価している人もいる、

というようなイメージです。

 

※なお、採点幅が6点と10点でも十分に差があるんじゃない?と考える人もいるかもしれません。

この基準は難しいところではありますが、
選挙における、いわゆる「1票の格差」問題では、2倍を超えるかどうかを基準として考えられています。

この判断基準を採用すると、
今回の審査では(6点と10点では約1.7倍なので)2倍以下であり問題はないと判断します。

 

 

もし評価方法が違った場合

各審査員の採点については特に言うことがないですので、
今回は「評価方法」に焦点を当ててもう少し考察してみたいと思います。

 

今年のM-1グランプリは、戦前から「誰が審査をするか」という点が話題に挙がっていましたが、

実は、官能評価においては、

・誰が評価をするか
よりも

・どのような方法で評価をするか
がより重要で、

評価方法の仕組みを適切に構築することがポイントとなります。

 

M-1グランプリの評価方法については既に確立されており、
問題がある訳ではないのですが、

ここでは、もし違う評価方法だった場合に結果がどうなっていたか、を考えてみたいと思います。

 

 

(1)ファーストステージも「投票」だった場合

M-1グランプリでは、最終決戦のみ、
「1組を選んで一番面白い組を投票する方法」
を採用していますが、

もし仮に、ファーストステージでも同様の「投票」形式を採用した上で
上位3組を選出していたとしたら、どのような結果になっていたでしょうか?

 

ファーストステージの採点結果から、各審査員が1位に選んだ組を見ると、以下となります。

【博多大吉】真空ジェシカ
【ナイツ塙】トム・ブラウン
【笑い飯哲夫】バッテリィズ
【オードリー若林】バッテリィズ
【ノンスタ石田】バッテリィズ
【かまいたち山内】真空ジェシカ
【アンタ柴田】バッテリィズ
【海原ともこ】バッテリィズ、令和ロマン(同点)
【中川家礼二】バッテリィズ

 

つまり、「投票」形式だった場合の各コンビの得票数は以下。

【バッテリィズ】5.5票
【真空ジェシカ】2票
【トム・ブラウン】1票
【令和ロマン】0.5票

※海原ともこさんは2組を最上位で同点にしていたので、0.5票ずつとして計算。

 

この結果を見ると、令和ロマンは上位3組から外れてしまうということになります!

 

 

(2)最終決戦も採点だった場合(キングオブコント方式)

M-1グランプリと双璧をなすお笑いコンテストである「キングオブコント」では、

ファーストステージだけでなく、最終決戦でも「採点」形式を採用しており、
またファーストステージと最終決戦の採点結果を合計して優勝を決めています。

もし、M-1グランプリでもこの方式を採用したとしたら、どうでしょうか?

 

今回、ファーストステージにおいて
1位のバッテリィズと2位の令和ロマンでは11点の差がついていました。

 

最終決戦の採点結果は明らかにされていない(そもそも採点していない)のですが、
仮に採点していた場合、11点の差を埋めることができてたでしょうか?

 

※細かく見ると、
・最終決戦では、9人中3人がバッテリィズに投票している
ことから、
→少なくとも3人はバッテリィズと令和ロマンが同点(あるいはバッテリィズのが高得点)
→つまり、残り6人の審査員が2点以上の差をつけないと、11点の差は逆転できない。

と分析することができます。

客観的に見ると、最終決戦で、6人全員が2点の差をつけていたとは到底考えにくいので、
キングオブコント形式で採点した場合は、バッテリィズが優勝していたと想定されます。

 

 

目的に合った評価方法を考えることが重要

M-1グランプリは、「一番面白い漫才師を選ぶ大会」と銘打っていますが、

厳密に言うと、「M-1グランプリの評価方法に一番マッチした漫才師を選ぶ大会」だと言えます。

 

※今回の例でいうと、
ファーストステージでは
トム・ブラウンのように、好みはわかれるけど誰かから1位を選んでもらえるネタをするより、
令和ロマンのように、(1位ではなくても)多くの人から高評価をもらえるようなネタをした方が得策ということになります。

令和ロマンはそのあたりの戦略も素晴らしかった!と言えますね。

 

 

何を当たり前のことを言っているんだ、と思われるかもしれませんが、、
官能評価の世界では、この点をきちんと整理されていない会社も意外と多いです。

 

評価方法を構築する際には、目的に合致した評価方法になっているかを整理することが必要で、

今回の例で言えば、
「一番面白い漫才師を選ぶ」という目的に合致した評価方法になっているか
(例えば、ファーストステージも最終決戦と同様の「投票」形式にするより、
ファーストステージは「採点」にした方が良いのではないか)

という点を議論することが重要ということになります。

 

M-1グランプリは、
歴史を重ねる中で何度か審査方法を変えて今のシステムにたどり着き、
現在は非常に納得性の高い制度になっていますが、

官能評価(味覚評価)においては、納得性の低い評価方法を採用している会社があるのも実情です。

食品会社等、官能評価を実施している会社にお勤めの方は、
是非この機会に検討してみていただけると良いのではないかと思います。

 

※私たち一般社団法人日本味覚協会では
官能評価の制度構築に関するコンサルティング業務も実施していますので、
もし興味がある方はお気軽にお問い合わせください。

 

 

以上!本日はM-1グランプリの審査に関する考察でした!

 

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本日のまとめ

・お笑いの評価と味覚の評価は非常に似ている
・もし評価方法が異なっていればM-1グランプリの優勝者は変わっていた
・もう来年のM-1グランプリがすごく楽しみになっています
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