3月4日に、R-1グランプリが開催されました!
R-1グランプリは、一人芸(ピン芸人)のナンバーワンを決めるコンテストです。

お笑いのコンテストを実施すると、ほとんどの場合において、審査員の採点についても議論や批判が沸き起こります。

それほどお笑いの審査・評価というのは難しいものなのですが、
実は、お笑い(おもしろさ)の評価と味覚(おいしさ)の評価は非常に似ていますので、

今回は、日本味覚協会で実施している味覚評価(官能評価)の考え方を基に、
R-1グランプリの審査について考察してみたいと思います!

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評価手法/評価者(パネル)の考察

R-1グランプリは、2002年に第1回大会が実施されてから
これまで実施方法や評価手法について様々な変更を経てきましたが、

 

今回の2023年大会では、

8名(敗者復活1名含む)のネタを見て、

1stステージでは5名の審査員が1人100点の持ち点(500点満点)で採点し、
上位2名がFinalステージに進出するという形式、

Finalステージでは5名の審査員が面白いと思った方に投票する形式

で優勝者を決めています。

 

 

これらの評価方法は、味覚評価(官能評価)の用語で言うと、

1stステージ・・・採点法(独立評価法)
Finalステージ・・・2点嗜好法(2点比較法)

と呼ばれる方法になります。

 

 

また評価者(の集団)について考えると、

5名の審査員(少人数の専門家による評価)という観点から、
評価者は「分析型パネル」が用いられている、と言えます。

味覚評価では、評価者の集団のことを「パネル」と定義します。

※逆に、(専門家でない)大人数が評価者になる場合、(一般の観客や視聴者など)
この評価者のことを「嗜好型パネル」と呼びます。

※なお今回用いられた「採点法」、「2点嗜好法」はどちらも適切な評価方法であると言えますが、
2点嗜好法は「分析型パネル(少人数)」より「嗜好型パネル(大人数)」で用いる方が良いとされています。

 

 

 

少人数の専門家による評価(分析型パネル)という点は、
他の主要なお笑いコンテストであるM-1グランプリやキングオブコントも
(現在は)同様の形式となっています。

味覚の評価においても、少人数の専門家による「分析型パネル」の評価が主流ですので、
R-1グランプリでは適切な評価パネルが選択されていた、と言えます。

 

また評価方法についても、

(Finalステージの評価方法が「2点嗜好法」ではなく「採点法」を用いた方がより良いとは言えますが)

概ね適切であったと考えられます。

 

 

 

各審査員の点数(評価)は?

運営側が定める評価ルール(評価者の設定方法や評価方法)については概ね問題なし!ということでしたが、

 

ここからは各審査員の点数(評価)に問題がなかったかを考察していきます。
(わかりやすく、1stステージのみを対象として考察します)

 

こういう書き方をすると、
「審査員の評価なんて自由でしょ?」
「自由だから審査に問題とかないよ!」
と言われる方もいるかもしれません。

 

たしかに審査員は自由に点数をつけていいのですが、

味覚評価においては、
「審査員(評価者)同士で評価ルールの相互理解が図れているかどうか」
という点が非常に重要になります。

 

評価ルールの相互理解?何を言っているの?

と思った方が多いと思うので具体例を挙げたいと思いますが、

 

お笑いコンテストでは「点数幅問題」がこれに当たります。

 

(明文化されている)評価ルールによれば、

5名の審査員が1人100点の持ち点(500点満点)で採点

となっていますが、

例えばある審査員がこのルールを真に受けて、
面白いと思った人に100点、つまらないと思った人に0点を付けてしまう(点数幅が100点)
とどうなるでしょうか。

 

100点満点で評価する、というルール上は問題ないはずなのですが、
他の人が例えば10点の点数幅(例:85点~95点)で評価しているところに、
一人だけ100点の点数幅(0点~100点)で評価してしまうと、
100点の幅で点数を付けた人の影響が大きくなりすぎてしまいます。

 

ですので、

(明文化はされていないものの)点数幅は概ね○点にしましょう、

ということを審査員同士で相互理解しておく必要があります。

 

これが「評価ルールの相互理解」の一例です。

 

 

では、具体的にR-1グランプリ2023の各審査員の点数を見ていきましょう。(敬称略)

 

 

前述した「点数幅問題」で言うと、
皆さん5点~7点の幅で付けており、大きな違いはないので、問題ないと感じました。

 

なお、バカリズムさんの平均点が低いのが特徴的ですが、
平均点は高くしようが低くしようが、(点数幅に差がなければ)評価としては問題ありません。

 

 

審査(評価)は問題なかったってことでOK?

前述した部分までは、評価ルールや、個別の得点は概ね問題ないと述べましたが、、、

 

もし今回の評価が食品の官能評価(味覚評価)で、
私たち日本味覚協会が評価者研修の講師を担当させていただく場合は、

次の2点について意見を述べさせていただくことになるかと思います。

 

1点目は、「順位法」問題です!

 

 

今回の審査では、陣内智則さんが、8人に対して、低い人から順に並べると

88点、89点、90点、91点、92点、93点、94点、95点

と、全員1点刻みで点数を付けています。

 

 

本当に面白さの度合いが全員1点ずつ違っていた、と判断したのであれば問題ないのですが、

一人ひとりにあえて違いをつけなければいけない、という意識が働いたのであれば、
評価方法として問題になります。

 

※ちなみに、今年は陣内さんが1点刻みの点数をつけましたが、
昨年のR-1グランプリではバカリズムさんが全員1点刻みで採点をしていました。

バカリズムさんは今年も7人目まで(最後の1人になるまでは)全員1点刻みの点数をつけていますので、同様に、あえて違いをつけようという意識が働いたのではないか?と推測されます。

 

 

一人ひとりに違いをつける(順位をつける)評価方法としては、
その名の通り「順位法」と呼ばれる評価方法があり、

面白い人から1位~8位の順位をつける、という手法なのですが、

 

全員が「採点法」で評価しているのにも関わらず、
1人だけ「順位法」で評価をしてしまうと、評価が適切ではなくなってしまいます。

 

※例えば、本当は「90.2点」くらいの面白さの人と、「89.6点」くらいの面白さの人がいた場合、
本来であれば、両者とも(四捨五入して)「90点」と評価するのが妥当なのですが、
違いをつけようという意識が働くと、例えば「90点」と「89点」という点数が付けられることになります。
これは「採点法」においては不適切な評価であると言えます。

 

※評価ルールとして、評価者全員が「順位法」で評価する、
と定めていればもちろん違いをつける評価で問題ないのですが、

今回は「採点法」で評価をしているはずですので、
評価者同士で意識がずれている(相互理解が図れていない)ことが問題ということになります。

 

 

当協会が味覚評価(官能評価)の評価者研修を実施する場合、
このような評価をしている評価者がいれば、

違いをつけようとしたかどうかを評価者に確認し、もしそうであれば、
「あえて違いをつける必要はありませんよ!」と注意を促しています。

 

 

採点の基準は?「面白さ」って何?

今回の採点では、もう一つ大きな特徴が見られたかなと思います。

それは、カベポスター永見さんの得点についてです。

 

なんと、永見さんのネタについて、

野田さんと小藪さんは全体で1位の点数、
バカリズムさんと陣内さんは全体で8位(最下位)の点数

を付けています。

 

 

これがもし食品の評価の場合、8個もサンプルがある中で、
おいしさの評価が「1位」と「最下位」に(しかも2名ずつが)分かれるということはかなり珍しい現象です。

 

この場合、「おいしさ」という評価項目をどのように捉えているか、
「評価者同士の相互理解」が図れていない可能性があります。

 

※わかりやすい例で言うと、例えば卵料理の「おいしさ」を評価するコンテストがあり、
(料理手順や見た目が)非常にシンプルなオムライスが応募されたとします。

ある評価者は、
「シンプルだけど味は美味しいから高得点!」

別の評価者は、
「美味しいと思ったけど、さすがに工夫がなさすぎるからコンテストとしては低い得点!」

と評価をしたとします。

 

これはどちらが良い、悪いという問題ではないですが、
どういう評価基準で点数をつけるべきかは、評価者同士で(ある程度)認識を合わせた方が良いとされます。

 

※この点については非常に難しい問題で、

じゃあ、「おいしさ」という項目を細分化し、例えば「独創性」とか別の項目を付ける方が良いか、というとまたそれも適切とは言い難いです。
(各項目の点数の適切なウェイト設定が非常に難解になるため)

ですので、「おいしさ」という項目が何を指すかどうか、については、
具体的かつ100%正確な言語化は難しいけどある程度意識は合わせたい、というものであり、

そのため、意識を100%すりあわせることは難しいのですが、

 

とはいえ、今回のように、「1位」と「最下位」という評価が、
それぞれ2名ずつ出るようなケースでは、

さすがに意識合わせがうまくいっていない、と推測され、

評価者同士でもう少し意識合わせをしてみてね、注意を促すこととなります。

 

 

 

以上!
今日はR-1グランプリから味覚評価(官能評価)の考え方を少しご紹介させていただきました!

 

もし食品会社に勤めている方などで、
味覚評価(官能評価)の研修をしたい!という方がいらっしゃいましたら
是非お問い合わせフォームよりご連絡くださいね!

 

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本日のまとめ
・「お笑い」の評価と「味覚」の評価は似ている。
・お笑いと味覚の評価は、評価ルールの設定だけでなく
評価者同士の意識合わせが重要。
・田津原理音さん、R-1グランプリ優勝おめでとうございます!
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