先日、芸歴16年目以上の芸人による漫才トーナメント「ザセカンド」の第2回大会が開催されました。
お笑いの大会がこの「味覚ステーション」に何か関係があるんですか?
と感じる方もいると思いますが、
そもそもお笑いの評価は、食(おいしさ)の評価と非常に似ている部分があります。
そのため、食の評価方法(官能評価手法)についてセミナー等を実施している
私たち日本味覚協会では、お笑いコンテストは常に注目しています。
なかでも「ザセカンド」は、非常に珍しい「観客審査」を採用しており、
昨年の第1回大会終了時にも記事を執筆させていただきました。
参考記事:漫才「ザセカンド」の審査方法は正しい?~官能評価の方法から考察する~
今年の第2回大会については、各試合についてより詳細に分析をしてみましたので、ご覧ください!
「おもしろい」という感覚は、主観なので客観的な評価がとても難しいです。
同様に、「おいしい」という感覚も、主観のため客観的な評価が難しいです。
ですが、食品会社などでは、ある特定の人(例えば社長とか、開発者とか)
の主観だけで食品を開発していると、うまくいかない部分がでてきます。
どうしても客観的な評価が必要になるので、
食の世界では「官能評価」といって味を適切に評価する仕組みが整えられています。
「おもしろい」という感覚も「おいしい」という感覚に似ているので、
官能評価の考え方を基に評価方法(審査方法)を検討すべきだと思います。
近年の様々なお笑いコンテスト(M-1グランプリなど)では、
審査方法もかなりブラッシュアップされてきており、
官能評価の考え方に基づいてみても適切な審査方法が採用されていることが多いのですが、
最近始まった「ザセカンド」については、まだ改善の余地があるのではないか、と思っています。
では、今年の「ザセカンド」第2回大会について、
具体的に1試合ずつ審査結果を見ていきましょう。
8組のコンビがトーナメント方式で勝ち抜いていくこの大会。
1試合目は、ハンジロウVS金属バット。
審査方法は、
【評価者】100名の観客(一般の方)
【評価方法】2組のネタを見た後で、3点満点で採点
となっています。
この試合では、100名中66名が同点にしており、実質34名のみで審査していることとなります。
一般の審査員が大人数で評価をする場合を「嗜好型パネル」と呼ぶのですが、
大人数で評価すべきであるのに、実質34名での評価となっている点は問題点の1つなのではないかと感じます。
第2試合は、ラフ次元VSガクテンソク。
この第2試合は、先ほどの第1試合よりは差がつきましたが、
それでも同点にしている人が56名もいますね。
続いては、第3試合のななまがりVSタモンズです!
1点差の大接戦でした!
こういう試合こそ、問題点が浮き彫りになりやすいので、詳しく見ていきます。
まず、今回も同点の人が60名いたので、実質40名での評価でした。
40人のうち、
・先攻(ななまがり)に高く点をつけた人・・・20名
・後攻(タモンズ)に高く点をつけた人・・・・20名
と全くの互角です。
そのため、「2点差」をつけた人によって勝者が決められたことになります。
この2点差をつけることができるルールは、「嗜好型パネル」としては非常に問題だと思います。
そもそも、一般の方が審査する嗜好型パネルでは、
評価基準について評価者同士で十分なすり合わせができません。
具体的に言うと、例えば、
もし「今回の試合が10点満点だったとしたら、『9点』と『7点』くらいかなぁ」
と感じた審査員が3名いるとしましょう。
しかし今回は3点満点で採点するので、
ある審査員は、「9点と7点だけど、どちらもすごく面白いと言えるし、両方とも『3』をつけよう!」
と考えます。
一方で、別の審査員は、「9点と7点で微妙に差があったから、『3』と『2』にしよう!」
またさらに別の審査員は、「9点と7点で2点の差がついているし、『3』と『1』にしよう!」
という人も出てきます。
つまり、仮に同じように感じた場合でも、評価者の「評価基準に対する考え方」次第で、
審査点が変わってきてしまう可能性があるのです!
※このような問題が起きないようにするため、一般的に嗜好型パネルでは「2択」が原則で、
この場合で言えば、
比較してどちらがおもしろかったかを投票させる形式が適切、とされています。
続いて、1回戦の最後の試合、タイムマシーン3号VSザ・パンチです。
前評判ではタイムマシーン3号が優勢かと思いましたが、後攻のザ・パンチが勝ちました。
なお1回戦の4試合は、すべて後攻が勝利しています。
これは、2組を見終わってから審査するので、直前に見た漫才の方を面白く感じてしまうという
「順序効果」が影響していると考えられます。
順序効果には特効薬的な対策がないため、
評価者に、「順序効果が発生することを踏まえて評価を行ってもらう」必要があるのですが、
一般の審査員にそこまで求めるのは難しいため、結果に大きな影響が出てしまっていると考えられます。
この点も「嗜好型パネル」が抱える問題と言えますね。
続いて、準決勝の第1試合、ガクテンソクVS金属バット。
こちらも同点が64人もいますね。
実質36人の評価では嗜好型パネル(大人数)と言っていいのか、とも思います。
36人のうち「2票」持っている人が2人もいますしね。。
今回は勝敗には影響していませんが、36人という多くはない人数の中で、
1人で2点も持つのは影響度合いが大きくなってしまうので、
やはりこの2点差問題は早急に改善すべきだと思います。
次は、準決勝第2試合、タモンズVSザ・パンチです。
この試合は結果的に差がつきましたが、
勝者の「ザ・パンチ」の方に4人『1点』をつけた人がいた、
という点が特徴的です。
細かく見ていくと、1点をつけた4名の方は、
1回戦の「ザ・パンチ」の漫才も低めの評価で、4人全員が「2点」をつけていました。
(多分ザ・パンチが合わない方たちだと思われます)
これは推測ですが、
この4名の評価者が準決勝の漫才を見たときに、「1回戦より面白くない」と感じたのではないでしょうか。
いわゆる縦の比較をした結果「1点」をつけたのではないかと考えられます。
今回の3点満点での評価は、本来は「絶対評価」であるべきなので、
「さっきより面白くなかったから、さっきより低い点数をつける」
という相対評価的な判断は、厳密にいうと正しくないと考えられます。
この点も、評価基準をしっかりと徹底できない、という嗜好型パネルの特徴が出た部分だと感じました。
最後に決勝戦。ザ・パンチVSガクテンソクです。
決勝戦が一番の大差となりましたね。
これまでで一番多くの人が「点差」をつけた試合でしたが、
それでも43人は同点にしているので、実質50名くらいでの評価となりました。
もし今後も審査方法を変えずにそのまま行くのであれば、
せめて審査員を倍にして、実質の評価者が100名くらいになるようにした方が良いのかなと感じました。
以上、今回は「ザセカンド」について1試合ずつ詳細を分析しながら、
審査の問題点や改善点などを考察してみました!
今回はお笑いの評価に関する考察でしたが、
もし食に関する官能評価について、もし何か改善したいと考えている方がいらっしゃいましたら
是非日本味覚協会までお問い合わせくださいね!
———————————————————————————–
本日のまとめ
関連記事:官能評価とは?お笑いの審査方法から考える味覚評価の仕組み
関連記事:【官能評価から考える】M-1審査員の評価は?~山田邦子さんの評価は適切だった?~
関連記事:答えの選択肢の順番を変えることで正解率は変わる?~順序効果と統計解析~
関連記事:世界一わかりやすい「統計解析」の基本~有意水準と有意確率(P値)とは~
関連記事:「ご趣味は?」と聞かれた時に最も好感度が高い11の答え方~男性・女性に人気の趣味探し~