私たち日本味覚協会では、食品会社の方向けに、
官能評価(味覚評価)に関する研修をさせていただくことが多いのですが、

その際、「味覚の評価はお笑いの評価に似ている」という話をよくしています。

食べ物の味も、お笑いも、
人の感覚による評価で、主観的であり、好き嫌い(嗜好性)が関係する、
という点で共通しています。

そこで本日は、先日行われたM-1グランプリの評価者(審査員)に関して、
官能評価(味覚評価)の考え方を基に、考察してみたいと思います!

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M-1グランプリ、面白かったですね!

今年のM-1グランプリは、優勝のウエストランドに関するネタについてもですが、
新たに審査員として加わった山田邦子さんの採点についても様々な議論を巻き起こしています!

 

冒頭で述べたように、お笑いの審査は、
食べ物の味を評価する「官能評価」と非常に似ていますので、

当協会が官能評価の研修にてお伝えさせていただいている内容を一部参考に、
M-1グランプリ(2022)の審査員に関する考察をしてみたいと思います!

 

なおM-1グランプリの決勝は、
10組による「1stステージ」と、上位3組による「最終決戦」で評価手法が異なっていますが、

今回は「1stステージ」に焦点を絞って述べさせていただきます。

 

 

M-1グランプリの評価者のパネルとは?

官能評価を実施する際の評価者の集団のことを「パネル」と呼びますが、

官能評価に適切なパネルは、「分析型パネル」と「嗜好型パネル」の2つと言われています。

 

大まかにいうと、

分析型パネルとは、少人数の専門家による評価で、
嗜好型パネルは、大人数の一般人による評価を指します。

 

分析型パネルでは、採点形式(等)がふさわしいとされており、
嗜好型パネルでは、2組(複数組)のうちどちらかを選ぶ形式(等)がふさわしいとされています。

 

M-1グランプリ(1stステージ)の審査は、
お笑いの専門家7名による採点評価であり、まさに「分析型パネル」であると言えます!

 

※余談ですが、別のお笑いコンテストである「THE W」(2022年の審査方法)は、
少人数の専門家による審査員、つまり「分析型パネル」なのに、
審査形式は「2組のうちどちらが面白いかを選ぶ形式」(嗜好型パネルにふさわしい方法)
としてしまっているため、
官能評価の考え方から言うと、適切な評価ができているとは言い難いです。

 

 

M-1グランプリの採点方法とは?

M-1グランプリでは、審査員7名が、それぞれ100点満点で採点する形式としています。

 

しかしここで注意したいのは、

100点満点と言えど、近年では、大きく見積もっても
81点~100点の20点の幅の中で評価しているのが実情である

という点です。

 

かなり以前には、ある審査員が「50点」という点数をつけたこともあるのですが、、、

特定の1名の点数幅が極端に大きすぎてしまうと、
その1名の評価が全体の評価に大きく影響を与えすぎてしまいます。

よって、官能評価では「各審査員の点数幅が一定である」ことが重要となります。

 

この、実際は100点の幅で評価してはいけない、というのは「暗黙の了解」的なルールであり、
(毎年見ている視聴者も理解しているレベルのルールではあるのですが)
当然、評価者(審査員)同士でも意識がすり合っている必要があります。

 

 

 

また、官能評価では、複数の食品を評価する際、途中で
「他の評価者の点数を見てはいけない」
というルールが一般的ですが、

M-1グランプリでは、1組ずつ採点し、その際
「他の審査員の採点結果を見ることができる」
形式となっています。

 

 

各審査員の点数は?

ここまで、評価ルール(評価パネル/採点方法)について整理しました。

ここからは、審査結果の考察に移りたいと思います。

まず、M-1グランプリ(1stステージ)の各審査員の点数を以下にまとめます。

 

「平均点」を見ると、山田邦子さんが89点台とやや低いですが、
他の6名は92点~93点台と近い値を出しています。

 

ただし、官能評価において、平均点の高低は問題ではありません。

ですので、この点において、山田邦子さんの評価が適切でない、
というのはナンセンスであると言えます。

 

 

次に「点数幅」を見ると、
過去5年(以上)連続で審査員を務めている
松本さん、礼二さん、志らくさん、富澤さん、塙さんの5名は、

8点~10点の幅で評価をしていることがわかります!

 

仮に、10組が1点ずつ差がある場合には9点の幅が出ることになるので、
そのくらい(各組1点差が出るくらい)の幅を意識して採点していることが見て取れます。

5年(以上)連続で審査しているだけあり、採点幅の意識合わせがバッチリできています!

 

官能評価では、(明文化されていない部分に関する)
評価者同士の意識合わせは非常に重要なのですが、この点はさすがだと感じました。

 

 

この点を見ると、今年審査員に加わった

山田邦子さんの点数幅は「11点」
博多大吉さんの点数幅は「6点」

となっています。

山田邦子さんは他の5名の最大幅(10点)より1点だけ大きく、
博多大吉さんは最小幅(8点)より2点小さいという結果でした。

 

特に博多大吉さんの点数幅は小さく、まさに「中心化傾向」に陥っていると言えます。

※中心化傾向とは、例えば1~5の5段階評価をするときでも、
2~4の実質3段階で評価をしてしまうような(点数幅の狭い)評価者のタイプを指します。
(性格が優しい人が陥りやすいと言われる傾向です)

 

この点から見ると、
どちらかと言えば(山田邦子さんより)博多大吉さんの評価の方が問題があると言えます。

(ただし、それほど大きい問題ではないと考えます)

 

 

では、なぜ山田邦子さんの評価について批判が起きてるの?

平均点や点数幅については、山田邦子さんの採点は大きな問題がなかったのにも関わらず、
なぜ議論の対象となっているのでしょうか?

 

その理由として、挙げられる事象は以下であると考えられます。

1組目(カベポスター)に84点という低い点数をつけ、
2組目(真空ジェシカ)に95点という高得点を付けた。

 

この事象から、

A:審査すべき点数(平均点や点数幅)に関して理解をしていなかったのではないか?
B:1組目の他の審査員の点数を見て、2組目から調整したのではないか?

と疑われる結果となった、と考えられます。

 

 

まずA(点数についての理解が足りない?)に関する点ですが、

点数のうち、平均点については低くても問題ありません。
例えば他の評価者が90点くらいを平均として評価したとして、
自分だけ80点を平均点として評価しても、問題はありません。
(ただし、点数幅は他の評価者と一定にする必要はあります)

 

しかし結果を見ると、前述した通り、平均点は低かったですが
点数幅については(やや高かったものの)十分許容範囲でした。

ですので、Aについては問題なかったと言えます。

 

 

次に、B(他の審査結果を見て調整した?)に関する点です。

これについては、真偽を確かめる術がありません。
本当に1組目が84点のレベルだと評価し、2組目が95点だと感じた、という場合もあり得ます。
そうであれば、特に問題ではありません。

 

また、もし本当に調整していたとしても、
それは評価者のせいというよりは、
「他の審査の結果を見ることができる」というルールの欠陥だと考えます。
(番組構成上、このようなルールにせざるを得ないのだとは思いますが)

 

評価者も人間なので、他の結果を見てしまえば、調整してしまうのは仕方がないことです。

※食品の官能評価をする場合は、
他の評価を見ることができないように「ルール設定をすること」が重要と考えられています。

 

 

そうは言っても、

そもそも1組目が84点、2組目が95点を付けるという感覚がおかしいのではないか?
と考える方もいるかもしれません。

 

この点については、必ずしも
他の審査員と同じような感覚で評価をしないといけない、という訳ではないのですが、

 

とはいえ、あからさまに他の評価者と審査の感覚がズレている場合は問題となりますので、
ここで「評価のズレ」についても確認してみたいと思います。

 

 

山田邦子さんの評価はズレていた?

評価のズレを確認する一つの方法として、「順位のズレ」を見る方法があります。

※例えば、他のみんなが「1位」と言っているのに自分だけ「10位」と言ったり、
他のみんなが「10位」と言っているのに自分だけ「1位」と評価すれば、ズレていることになります。

 

そこで、各審査員が採点した点数を順位化した表を以下に示します。

こうしてみると、山田邦子さんは、
1組目のカベポスターを10位、2組目の真空ジェシカを1位、
としているのが特徴で、やっぱり他の審査員とズレているのか?とも感じますが、、、

 

なんとなく、で見てはいけないので、
実際の順位と、各々の順位の差を計算してみます。

 

「実際の順位と自分が付けた順位の差の平均」を見てみると、

既存の審査員(右側の5名)はさすがですね!平均の値が低いです。
1点台の前半が多く、
特徴的な評価をしているイメージのある志らくさんですら、「1.6」という水準です。

 

それに比べ、今年審査員に加入した
山田邦子さんは「2.0」
博多大吉さんは「1.9」
と、他の5名と比べればやや高いかな、というレベルです。

これはもちろん長年一緒にやってきた人の方が意識合わせが進むので仕方のない部分ではありますが、

山田邦子さんはそれほど大きくズレていない

ということがわかります。
(むしろ、大吉さんが思ったよりズレていたな、という印象)

 

 

以上、総合的に判断すると、
山田邦子さんの評価に大きな問題はなかった、と考えられます。
(審査コメントなどの点は除き、あくまでも採点のみに関する考察)

 

実際に計算して検証すると、テレビで見ていた感覚と違う部分もあって、面白いですね!

 

 

今回は「官能評価」の考え方を基に「お笑い」の評価に関する考察を行いましたが、

もし「官能評価」に関して研修を実施したい!という方、
あるいはその他お問い合わせ等がございましたら、
お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください!

 

 

また、Eラーニング講座である「味覚スペシャリスト養成講座」でも
官能評価に関する詳細を解説させて頂いておりますので、
よろしければご参照いただけますと幸いです。

 

 

以上!今日はM-1グランプリの審査(評価)に関する考察でした!

 

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本日のまとめ

・「お笑い」は「味覚」の評価に似ている。
・議論が起きている山田邦子さんについては、大きな問題はなかったと考えられる。

・味覚だけでなくお笑いの評価方法の監修に関するご依頼もお待ちしてます。
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